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ポケモンに関する、Twitter (@lkm_mm) 上で吐き出した妄想をまとめていきます。

#2. ポケモンと遺伝子に関する考察

 

@lkm_mm

 

【概要】

 しんかポケモンイーブイやいでんしポケモンミュウツーなど、ポケモンの中には遺伝子と深い関係を持つと考えられているポケモンがいる。これらの知見は主にポケモン図鑑の記述から明らかとなってきた知見だが、それらの記述が示す「ポケモンの遺伝子」や「不安定な遺伝子」の真意については曖昧な点が多い。本考察では生命科学的な視点からポケモンと遺伝子の関係についてを検証し、遺伝子が持つと思われる機能について記述する。

 

【背景】

 遺伝子とはDNA (deoxyribonucleic acid) 中に含まれる「タンパク質の情報を持つ領域」のことで、ヒトの場合はおよそ20,000種類の遺伝子がゲノム(生命体1個体が持つDNAの全てを指す言葉;ヒトの場合は22種の常染色体と性染色体(X染色体及びY染色体)を構成するDNAをまとめた呼び名)中に存在すると考えられている。これらの遺伝子が持つ情報は全身の細胞で必要に応じて取り出され、その結果合成されたタンパク質が様々な機能を発揮することで生命活動が行われる(遺伝子が「発現」する)。DNAはアデニン (A)、チミン (T)、グアニン (G)、シトシン (C)(まとめて「塩基」と呼ぶ)のいずれか1つとデオキシリボース、及びリン酸と呼ばれる物質が結合した「ヌクレオチド」から成る (図1)。ヌクレオチド同士が結合していくことでDNAは巨大な分子となるが、ATGCの4種類の並び順(塩基配列)がタンパク質合成をはじめとした生命活動に重要な役割を果たす。そのため、DNA中のATGCの順番変動や抜け落ち等があると生命活動に支障を来す場合がある。また、全DNAの配列中にはタンパク質の情報を持たない領域も存在する。そのような領域は役割が分からないことから「ジャンクDNA」と呼ばれ、意味がないものとされてきたが、近年の研究から生物の進化(注:ポケモンの「進化」ではなく生物種の進化のこと)や遺伝子発現に重要な役割を担うことが示唆されてきている。

 多細胞生物には表皮細胞や神経細胞、免疫細胞など様々な種類の細胞が存在し、それぞれが異なる役割を担うことで個体を支えている。元々は1つだった細胞(受精卵)から種々の細胞は生み出されるが、その違いは細胞種毎に異なる遺伝子が発現するために生じる。基本的に同一個体中の細胞はゲノムDNAの全てを持つが、使わない遺伝子は発現しないように、使う遺伝子は発現するように調整がされている。

 特定のポケモンは、遺伝子がポケモン自身に大きな影響を及ぼすと考えられている。初代(第1世代;赤・緑、青、ピカチュウ)で登場したポケモンにおいてはイーブイミュウツー、しんしゅポケモン・ミュウがこれに該当する。第7世代(サン・ムーン、ウルトラサン・ウルトラムーン)現在に至るまで、これらのポケモンのように遺伝子について言及されているポケモンは新たに追加されてきており、特に第3世代で登場したDNAポケモンデオキシスは有名である。他にも、第5世代で登場したこせいだいポケモンゲノセクトは名前の由来の1つが「ゲノム」と考えられていることや、同じく第5世代で登場したきょうかいポケモンキュレムをフォルムチェンジ(はくようポケモン・レシラムまたはこくいんポケモンゼクロムと合体)させるために必要なアイテムの名称が「いでんしのくさび」であることもポケモンと遺伝子の関係を示唆するものである。本考察では、ポケモンの説明に度々登場する「遺伝子」という言葉の真意について考察していく。

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1. ヌクレオチドの構造

DNAの構成単位であるヌクレオチドの模式図。リン酸、デオキシリボース、塩基(base)から構成される。Oは酸素原子、Hは水素原子、Pはリン原子を表す。DNAを構成するヌクレオチドの塩基はA, T, G, Cであり、4種のうちいずれか1種を持つ。ヌクレオチド同士はリン酸とOHを介して結合していく。その際にA, T, G, Cのうちどの塩基を持つヌクレオチドがどの順番で結合するかが生命活動を行う上で重要となる。

 

【知見と考察】

 

ミュウが持つという「全てのポケモンの遺伝子」の意味

  まず、ミュウについて考える。銀、ソウルシルバー、Y、ルビー・サファイア、エメラルド、オメガルビーアルファサファイアポケモン図鑑ではミュウの遺伝子には全てのポケモンの情報が含まれているという旨の記述を見ることができる (文1 A, B)。まず銀、ソウルシルバー、Yの図鑑説明にある「いでんしには すべての ポケモンの じょうほうが ふくまれている」(文1 A) について考える。「すべての ポケモンの じょうほう」とはどういう意味だろうか。この記述は、必ずしも「ミュウは全てのポケモンのゲノム情報を持つ」という意味にはならない。おそらく、この記述の真意は「ミュウは『各ポケモンが持つ、各ポケモンに特異的な遺伝子』を全て持つ」ということだろう。そのような遺伝子は全ゲノム情報中のほんの一部に過ぎないと考えられ、近縁種のポケモン間では共通した遺伝子を持つ(「保存」された遺伝子を持つ)可能性も考えられる。このように考えると、前述したような解釈をすることができる。次にルビー・サファイア、エメラルド、オメガルビーアルファサファイアの図鑑説明にある「すべての ポケモンの いでんしを もつ」(文1 B) について考える。この文が「『すべての ポケモン』の いでんしを もつ」なのか「すべての 『ポケモンの いでんし』を もつ」なのかは議論の余地がある。前者であれば「どのポケモンも、(遺伝子の種類は問わず)少なくとも1つはミュウと同じ遺伝子を持つ」と解釈でき、後者であれば「生物学的に『ポケモン』と定義するための目印(マーカー)となる複数種類の遺伝子(全て持たなくても『ポケモン』の定義を満たす)を、ミュウは全て持っている」と解釈できる。

 

 

A

 

いでんしには すべての ポケモン じょうほうが ふくまれているので あらゆる わざが つかえるという。

 

B

 

すべての ポケモン いでんしを もつと いう。じゆうじざいに すがたを けすことが できるので ひとに ちかづいても まったく きづかれない。

 

1. ポケモン図鑑に記載されているミュウの説明

A. 銀、ソウルシルバー、Yにおけるミュウの図鑑説明。

B. ルビー・サファイア、エメラルド、オメガルビーアルファサファイアにおけるミュウの図鑑説明。

 

イーブイの「不規則 / 不安定 / アンバランスな遺伝子」について

  イーブイは第7世代現在、8通りの進化の可能性を持つポケモンである (文2 A)。ポケモン図鑑の記述によれば、イーブイの遺伝子は周りの環境や石(主に進化の石のことを示していると思われる)から出る放射線の影響によって変異を起こすという。ポケモン図鑑の記述の多くで言及されている、外部の要因がイーブイの遺伝子に与える影響というのは「イーブイの遺伝子『発現』に影響を及ぼす」という解釈が最も合理的だと考えられる。遺伝子自身の突然変異とは、遺伝子の塩基配列が壊れることを意味する。これは放射線被ばく以外にもウイルスの感染や化学物質への曝露等で引き起こされることがあるが、そのような場合は遺伝子が機能を失う(合成されるタンパク質が正しく機能しなくなる、またはタンパク質が合成されなくなる)ことが度々起こる。イーブイの遺伝子配列が変異してしまった場合、イーブイの体には異常が生じる可能性がある。ピカチュウ版のポケモン図鑑には「せいぞんすうが すくない」と記述されているが、その原因の1つは遺伝子配列の変異かもしれない。ルビー・サファイア・エメラルド、オメガルビーアルファサファイアポケモン図鑑には「とつぜんへんい する ふあんていな いでんし」とあることからも、イーブイの遺伝子自身が変異しやすいことは確実だろう。しかし、石の放射線や月の光によって特定のポケモンに進化する (文2 A, B) ということは、ある種の刺激は遺伝子配列への変異誘導というよりむしろ遺伝子発現に影響する考える方が自然である。これらの見解をまとめると、イーブイの遺伝子は「配列に変異が起こりやすく、かつ発現自体も変化しやすい」ものだと言える。

 

A

 

赤・緑、ファイアレッド

 3しゅるいの ポケモン しんかする かのうせいを もつ めずらしい ポケモンだ。

 

青、リーフグリーン

ふきそくな いでんしを もつ。いしからでる ほうしゃせんによって からだが とつぜんへんいを おこす。

 

ピカチュウ

アンバランスな いでんしによって しんかの かのうせいに あふれる。 ただ せいぞんすうが すくない。

 

金、ハートゴールド

まわりの かんきょうに あわせて からだの つくりを かえていく のうりょくの もちぬし。

 

銀、ソウルシルバー

ふきそくな かたちの いでんしは まわりの えいきょうを うけやすい。かんきょうが かわると しんかする。

 

クリスタル

かんきょうの へんかに すぐさま あわせられるよう いくつもの しんかの かのうせいを ひめている。

 

ルビー・サファイア・エメラルド、オメガルビーアルファサファイア

くらしている かんきょうで とつぜんへんい する ふあんていな いでんしを もつ ポケモン。いしの ほうしゃせんが しんかを ひきおこす。

 

ダイヤモンド・パールX

しんかのとき すがたと のうりょくが かわることで きびしい かんきょうに たいおうする めずらしい ポケモン

 

プラチナ、ブラック・ホワイト

いでんしが ふきそくなため さまざまな りゆうに よって すぐに すがたかたちが かわってしまう。

 

ブラック2・ホワイト2Y

ふあんていな いでんしの おかげで さまざまな しんかの かのうせいを ひめている とくしゅな ポケモン

 

サン

アンバランス かつ ふあんていな いでんしを もっており さまざまな しんかの かのうせいを ひめている。

 

ムーン

いま げんざいの ちょうさでは なんと 8しゅるいもの ポケモン しんかする かのうせいを もつ。

 

ウルトラサン

イーブイだけが とても ふあんていな いでんしを もっている りゆうは いまだ かいめい されて いない。

 

ウルトラムーン

まわりの えいきょうを うけやすい いでんしを もつ。 おやに なった トレーナーの かおにも にてくるよ。

 

B

 

ルビー・サファイア・エメラルド、オメガルビーアルファサファイア

 つきの はどうを うけて しんかした ポケモン。くらやみに じっと ひそみ あいてを うかがう。おそいかかる とき からだの わっかが ひかる。

 

ダイヤモンド・パールX

つきの ひかりが イーブイ いでんしを へんかさせた。 やみに ひそみ えものを まつ。

 

2. イーブイは環境の影響を受けやすい遺伝子を持つポケモンである

A. 各バージョンのポケモン図鑑におけるイーブイの説明。

B. ルビー・サファイア、エメラルド・オメガルビーアルファサファイア及びダイヤモンド・パール、Xのポケモン図鑑におけるブラッキーの説明。

 

デオキシスの元となった宇宙ウイルスのDNAはレーザーの影響で配列が変化した

 最後に、デオキシスについて考える。ダイヤモンド・パール・プラチナ、ブラック・ホワイト、ブラック2・ホワイト2、Xのポケモン図鑑には「うちゅうウイルスの DNAが へんいして」という記述がある(ルビー、オメガルビーの図鑑説明でも同じ内容が言及されている)(文3)。このことから、デオキシスは「宇宙ウイルスのDNA配列が変わった」ことが原因で誕生したポケモンであることが分かる。

 

ルビー、オメガルビー

レーザーを あびた うちゅうウィルスの DNA とつぜんへんいを おこして うまれた ポケモン むねの すいしょうたいが のうみそ らしい。

 

サファイアアルファサファイア

うちゅうウィルスから たんじょうした ポケモン ちのうが たかく ちょうのうりょくを あやつる。 むねの すいしょうたいから レーザーを だす。

 

エメラルド

うちゅうウィルスが レーザーを あびたとき とつぜんへんいを おこして ポケモン なった。 すばやい うごきに すぐれた からだの かたち。

 

ファイアレッド

こうげきてきな かたちに へんかした デオキシス べつの すがたを みせて てきを まどわせる ちからを もつ。

 

リーフグリーン

すがたが かわるとき オーロラが あらわれる。 さいぼうを へんかさせて こうげきを きゅうしゅうしてしまう。

 

ダイヤモンド・パール・プラチナ、ブラック・ホワイト、ブラック2・ホワイト2X

いんせきに ふちゃくしていた うちゅうウイルスの DNA へんいして うまれた ポケモン

 

ハートゴールドソウルシルバーY

うちゅうウィルスが とつぜんへんいを おこして ポケモン なった。 オーロラの ちかくに あらわれる。

 

3. ポケモン図鑑に記載されているデオキシスの説明

ポケモン図鑑デオキシスの説明。隕石に付着していた宇宙ウイルスのDNAがレーザーの影響で変異し、それが原因でウイルスがポケモンになったという。

 

【まとめ】

 最後に、今回着目したミュウ、イーブイの遺伝子が持つ機能とはどのようなものであるかを簡単に推測する。デオキシスについては、デオキシスに関する疑問について記述する。

 前述のように、ミュウはどのポケモンとも、共通した遺伝子を1つ以上持つことが予想される。この知見より、ミュウはあらゆる技を使うことができると考えられている (文1 A)。遺伝子を持つということと使える技についてを関連付けて考えられているということは、ミュウが持つ全てのポケモンの遺伝子はポケモンに特異的な遺伝子であると予想される。また、その機能はポケモンの技に関与するものであると考えられる。ポケモンには特定の技を使うために必要な遺伝子が存在し、それがポケモンが習得できる技を規定しているのかもしれない。

 イーブイの遺伝子は、外部の刺激によって発現や配列自身も変化することが示唆された。ここでは、発現が変動すると考えられる遺伝子について考える。前述したように、イーブイは石から放たれる放射線の影響を受けることによって進化する (文2 A)。これが遺伝子の発現変動によるものであるという仮説を本考察で提唱した。この仮説を踏まえて考えると、発現変動する遺伝子はポケモンの進化に関係する遺伝子であると予想される。石の影響を受けて進化するポケモンイーブイ以外にも存在する(例:「かみなりのいし」で進化するピカチュウ、「たいようのいし」で進化するエリキテル)。これらの点から、石で進化するポケモンは進化の石の放射線によって発現が増強される、進化に関係する遺伝子を持つことが示唆される。おそらく、イーブイは「ほのおのいし」、「みずのいし」、「かみなりのいし」の放射線によって発現する遺伝子を持つのだろう。進化の石以外の方法で進化する場合には何が遺伝子に影響を及ぼすかは不明瞭な部分も多いが、少なくともしんりょくポケモンリーフィア(コケが生えた岩の周りでレベルアップすることで進化)、しんせつポケモン・グレイシア(凍った岩の周りでレベルアップすることで進化)へと姿を変える場合はそれぞれの岩から何らかの影響を受けていると予想される。また、げっこうポケモンブラッキーへの進化には月の光が関与している (文2 B) ことから、月の光もイーブイを進化させる遺伝子の発現に部分的な影響を及ぼすと考えられる(ブラッキーへの進化には、飼育下であればトレーナーに懐いていることが必要なため、月の光は要因の「1つ」である)。

 最後にデオキシスであるが、こちらについては予想が困難である。それ以前の根本的な疑問として、レーザーを浴びた元の宇宙ウイルスがポケモンの定義をゲノム情報的に満たしているかどうかがある。仮に元の宇宙ウイルスのゲノム中に「ポケモンであること」を定義するのに必要十分な遺伝子を持たないのであれば、デオキシス天文学的な確率の偶然によって生まれたことになる(どのような変異が起こるか分からない中で機能を持った遺伝子が出来る可能性は極めて低いと考えられる)。反対に、元の宇宙ウイルスのゲノム中に「ポケモンであること」を定義するのに必要十分な遺伝子を持つのであれば、それは宇宙にもポケモンが存在することを示す重要な証拠となる。

 地球上で「ウイルス」と定義される生命体は主に遺伝情報とタンパク質の空から構成されており、細胞(二重の脂質から成る膜によって外界と隔てられた構造)とは異なるものである。「生物」の定義満たす条件の中には「細胞を構成単位とすること」があり、ウイルスは生物とは定義されていない。デオキシスは生物足り得るのだろうか。仮にデオキシスが細胞を持つのだとすれば、それは大きな謎である。レーザーを浴びたウイルスが何らかの細胞に感染して(細胞内にウイルスのDNAを送り込んで)からポケモンになったのだろうか。この点に関しては記述が存在しないため、第7世代現在ではこれ以上言及することができない。

 

【方法】

 

画像

 図の作成は、Keynote (バージョン6.5.2) を使用して行った。

 

ゲーム中の記述(ポケモン図鑑の説明文)

 【参考・引用文献】に示す1を参照した。

 

「世代」の区分

 本考察では、バージョン(赤・緑など)を「世代」で区分した。赤・緑、青、ピカチュウを第1世代(初代)、金・銀、クリスタルを第2世代、ルビー・サファイアファイアレッドリーフグリーン、エメラルドを第3世代、ダイヤモンド・パール、プラチナ、ハートゴールドソウルシルバーを第4世代、ブラック・ホワイト、ブラック2・ホワイト2を第5世代、X・Y、オメガルビーアルファサファイアを第6世代、サン・ムーン、ウルトラサン・ウルトラムーンを第7世代とした。

 

【参考・引用文献】

  1. ポケモンwikihttps://wiki.ポケモン.com/wiki/